自立支援プロジェクト

1・自立支援とは?

生まれ育った環境の違いはさまざまですが、この施設におかれる子どもたちは、18歳で施設を出て、仕事をして自ら稼いだお金で、住まいや衣服を整え、食事をして、生活をしていかなければなりません。
しかし、子どもたちの中には、家庭の事情や生まれ育った環境から、基礎的な生活能力や、周りの人とのコミニュケーション能力、仕事に対する意欲や知識が低い人が少なくありません。
そんな子どもたちは、お金や人間関係のトラブルなどで困難な状況に陥ったとき、自力で乗り越えられなかったり、誰にも相談できずにいるうちに同じトラブルを何度も繰り返すことになります。

施設にいる間は生活は安定していますが、退所後に必要となる生きる力や、困ったときに相談できる人との関係を構築する必要があります。

また、施設を退所した後も、仕事を辞めてしまった時や、経済的にやりくりできなかった時などに、一時的にでも住まいや食事などを提供でき、次に気持ちを切り替えることができるような支援場所が必要です。

もし、結婚する時に相手家族から偏見の目で見られたり、出産する時に自分も親と同じように虐待してしまうのではと不安になったりするなど、さまざまな悩みも出てきます。自分が築いた家庭もうまく行かず、子どもを児童養護施設に預けざるを得ないという「負の連鎖」を断つためにも、末なが継続的な支援が必要です。

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2・児童養護施設での「自立支援」

1997 年の児童福祉法改正で、児童養護施設の主要目的は、「保護」から「自立支援」へ転換されました。さらに、2004 年の児童福祉法の改正では、児童養護施設の目的として「退所した子どもたちを支援すること」が追加され、現在、退所後3 年間は子どもたちを支援することが義務付けられるようになりました。

児童養護施設では、日頃の生活習慣を身に付けてもらうために、洗濯など身の回りのことや、料理を教えたりします。ぐるーぷになって、大きな子供が小さい子の面倒を見たり、より家庭に近い形で、責任を持たせながら、家族の役割を認識しています。一般の家庭よりも規則正しい生活習慣や家事をしっかり指導しています。
また、多くの施設では、生活資金を貯めると同時に仕事を体験する場として、アルバイトを奨励しています。自動車免許の取得を奨励する施設もあります。自立へ向けて社会人や卒園生を呼んで子どもたちに話を聞かせたり、職場体験などを希望する施設も多くあります。

しかしながら、現在施設で行われている自立支援では、退所後の子どもたちに大きな環境変化を乗り越えるのに十分とは言えません。

規則の多い集団生活から、自分次第の自由な生活へ。学業中心から、仕事中心の生活へ。

手にするお金は、お小遣い月数千円から、給料月10 万円以上へ。この大きな環境変化に加え、誘惑や悪意のある働きかけも少なくありません。
いつの間にかトラブルに巻き込まれ、簡単に仕事を辞めてしまったり、家賃を払えなくなってホームレスになったり、仕事と住む場所を確保するために風俗店で働く中で望まない妊娠をしてしまったり、孤独感や経済苦から悪い誘いに乗って事件を起こしてしまったりなど、「負の連鎖」に伴う様々な問題が起こります。

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3・児童養護施設が抱える課題

▼高校に行かない子への支援

中学卒業後、高校に進学しない子どもたちや、高校を中退する子どもたちは、施設に居られなくなってしまう、つまり「自立」を余儀なくされるという現状があります。
制度上は、自立の準備ができていないなど、子どもの事情に応じて最大20 歳まで施設に居られることになっていますが、どの施設も満員状態で児童相談所の一時保護施設で入所を待っている子どもたちがいることから、そうせざるを得ない実情があります。
そこで、「自立援助ホーム」(就労しながら自立を目指す子どもを支援する施設)という、新しい施設が全国的に増えてきています。

▼大学等進学者への支援

高校卒業後、専門学校を含めても児童養護の子どもたちが進学する割合は2 割程度であり、全国平均7 割に遠く及びません。
今の、実力主義の競争社会において、「頼れる親がいない、住む家がない、学歴や資格もない」子どもたちに、チャンスは平等とは到底言えない状況です。
そこで、子どもたち自身が「学歴」や「資格」という武器を手に入れることに重点を置いて自立支援を行う施設もあります。専門学校に通いたいと、自ら奨学金などで、謝金をしながら学校に通う決心をする子や、周りの社会企業やNPO法人など、様々な支援団体としても、独自に基金を作ったり、進学者用の住宅を用意したりするなどして、進学支援に取り組んでいます。

▼保証人の問題

「保護者」のいない子どもたちが、最初に直面する問題が「保証人」です。
日本では、家を借りるにも、就職するにも、保証人が必要です。施設の子どもたちがアパートを借りる場合、施設長が保証人になることもありますが、子どもが家賃を払えなくなって行方不明になってしまう場合などは、その支払いが施設長個人にふりかかります。
近年、退所後2 年間までは負債を補償する制度が整えられたものの、その後の契約更新は補償対象外となるため、保証人になりにくい状況が続いています。

▼甘えられない子どもたち

社会福祉全般においても、人は誰もが一人では生きていけないことを大前提として、「自立とは様々な社会資源やサービスを活用しながら、自らの主体的な意思に基づいて生活を組み立てていくことであり、自立支援とは、人が人としての尊厳を守って主体的に生きていくための支援」と認識が変わってきています。
児童養護においても、子どもたちが安心して甘えられる体制作りが喫緊の課題となっています。

 

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